監修:エルムス動物医療センター八幡山院 センター長 獣医師 高瀬雅行
執筆:2019年5月19日
検査により足に異常が認められ、整形外科疾患と診断された場合、各病気・怪我に対して適切な治療が必要になります。
整形外科疾患の治療は大きく「温存療法:内科治療」と「外科療法:手術」に分かれます。また、慢性的な関節炎や整形外科の手術を行ったあとなどでは、より質の高い生活に戻るために「理学療法:リハビリテーション」も重要となります。
検査の結果、「筋挫傷(肉離れ)」や「捻挫(靱帯の損傷)」、「関節痛」などと判断された場合には運動制限を行いつつ、消炎鎮痛剤の注射や内服薬の投与を行うことが一般的です。 また、骨折や脱臼などの場合にも、痛みと炎症を引かせるために消炎鎮痛剤が使用されます。 痛みが強い場合、神経痛なども疑われる場合には、消炎鎮痛剤以外の鎮痛剤を使用する場合もあります。 また、リウマチなどの免疫性の関節炎の場合などでは、ステロイド剤や免疫抑制剤などが必要になる可能性があります。 <消炎鎮痛剤(非ステロイド性)> ・オンシオール ・リマダイル ・プレビコックス など <その他の鎮痛剤> ・ガバペンチン ・リリカ ・トラマドール など <ステロイド剤> ・プレドニゾロン など <免疫抑制剤> ・アラバ ・シクロスポリン ・イムラン など
現在、多くの犬・猫用の関節炎や脊椎疾患用のサプリメントが販売され、使用されています。 関節炎は進行してしまうと改善が難しくなるため、なるべく早期に関節炎の可能性を診断し、サプリメントを早めから使用していくことが望ましく、関節の手術の後なども継続的にサプリメントを投与することが勧められます。 サプリメントには、グルコサミンやコンドロイチンなどを主成分としたものや、消炎効果のある脂肪酸を主成分としたものなど、様々な種類が存在します。 これらは関節炎の状態や動物の嗜好性、費用などを考慮して種類を決定します。 サプリメントの副作用は最小限ですが、稀に体質に合わない場合もありますので、薬と同様に注意は必要です。 また、人間用のサプリメントは、動物に毒性を持つ場合もありますので、使用する場合には動物用のサプリメントを強くお勧めします。 サプリメントの例 〈アンチノール〉 〈ムーブマックス〉
カルトロフェンベット 関節炎に伴う痛みや歩行異常を改善させるための薬です。 消炎鎮痛剤と異なり、関節炎進行の原因を直接改善させることで症状の緩和を目指します。 7日おきに4回ほど注射を行うので、病院への通院は必要となります。 また、持病があったり、他の薬を使用していると、投与できないことがあるので、少し注意も必要です。
痛みを起こす骨/筋肉の病気の場合には炎症を落ち着かせ、痛みを和らげるためにアイシングなども有効です。ただし骨折などの場合には無理に行うことでより悪化させてしまう可能性があるので注意が必要です。 *不適切なアイシングは逆に症状を悪化させたり凍傷を起こすので注意が必要
体重の管理も整形外科疾患の治療のためには重要となります。靭帯の断裂や関節炎などの多くは過剰な体重により発症のリスクが高まります。 整形外科疾患を起こさないため、整形外科疾患を悪化させないためには適切な体重コントロールが他の治療と同じくらい重要です。 体重管理は食事の管理と運動により行いますが、特に整形疾患をもつ患者では体重を落とすほどの運動を行う事が困難なため、特に食事でのコントロールが必須となります。
急性の脱臼や靭帯の損傷、筋挫傷や捻挫を起こした場合、受傷後すぐは適切な運動制限が必要です。 運動制限の程度は状態により様々ですが、特に急性期には走ったり、ジャンプや階段の上り下りなどは制限する必要があります。 急性期を超えてからは筋肉の維持や関節の健全性のために適切な運動を続けていく必要があります。
脱臼を起こしている場合、まずは脱臼を手で戻せるかどうか、「非観血的(手術をしないで)整復術」を試みます。 通常脱臼を戻す行為は強い痛みを伴うので、麻酔や鎮静が必要になります。 うまく脱臼が戻せた場合には、通常しばらく関節を維持するために適切な包帯を数週間巻きます。
骨折が認められた場合、骨が大きくずれていなければ包帯(ギプス)での固定を試みます。 手術が必要な場合でも、骨をそのままにしておくと痛みが強くなり、骨が皮膚を貫いてしまう可能性などもあるため手術までの間、一時的に包帯を使用します。 ※骨折の部位によっては包帯を使用できない場合があります。 また、脱臼を戻した後に関節を維持するためにも包帯を使用します。
骨折で骨がずれてしまっている場合、脱臼を戻すことができない/戻してもすぐ外れてしまう場合、靭帯が切れてしまっている場合などは手術が必要となる可能性が高くなります。 手術の場合には麻酔が必須となり、きちんと術前の評価を行った上で、痛みのコントロールを行いながら手術を行っていきます。
整形外科におけるリハビリテーションでは、その犬らしい生活を取り戻すために色々な治療が行われます。主な治療として、理学療法(運動療法・物理療法)、日常生活動作(ADL)練習、装具療法があります。 運動療法 ・関節可動域(ROM)運動 骨折・靭帯損傷・手術に伴う侵襲などにより、関節周囲の組織が固くなり正常な可動性を損なうことがあります。正常な関節機能を取り戻すために、それらの関節や筋肉の状態に合わせ適切な負荷で関節を動かします。 ・筋力強化運動 慢性的な症状や術後の炎症・痛みを伴っている足は筋力が低下します。筋力低下の部位を見極め、原因に合わせて適切に筋力を向上させるように運動を行います。 ・バランス練習・負重練習 身体の協調性を取り戻すために神経と筋肉の働きを整え、適切にバランスを保てるような練習を行います。また、適切な負荷で足に体重をかけること(負重)により、骨や軟部組織のリモデリングを誘発し、組織の回復を促進します。 物理療法 ・マッサージ 徒手的に筋肉や皮膚に刺激を加えることで組織の血流循環を促し、痛みの緩和・筋肉の過剰な緊張の改善・精神的なリラクセーションが得られます。 ・寒冷療法 急性期の炎症や痛みに対して適切な温度で冷やすことにより、炎症や痛みの緩和を図ります。 ・温熱療法 主に慢性的な炎症・痛みの緩和目的で患部を温めます。また、リラクセーション効果もあり、過剰な筋肉の緊張を緩和します。 ・電気刺激療法 神経と筋肉の働きの強化、筋力の増強、痛みの緩和を目的に電気的な刺激を加えます。 日常生活動作(ADL)練習 それぞれの犬の生活環境や習慣に合わせた生活動作の練習を行います。寝返り・起き上がり・おすわり・伏せ・歩行・段差昇降など細かい動作の確認を行い、それぞれの生活に合った動作の反復練習を実施します。 装具療法 コルセット・カラー・サポーターなどの装具を利用し、患部の保護、障がいの進行予防を行います。適切な装具を用いることで生活動作の改善を図ります。
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