膝蓋骨脱臼

監修:

執筆:

エルムス動物医療センター

2020年3月20日

膝蓋骨とは膝にあるお皿の骨で、膝蓋骨脱臼とはこの骨が内側や外側に外れる病気です。特に小型犬は内側に外れる膝蓋骨内方脱臼が多く認められます。
・トイ種では他の犬種の4−8倍多く発生。
・トイプードル、チワワ、パピヨン、ポメラニアン、ヨーキーなどで多い
・症例の50%が両側性

 

〈原因〉
先天性(遺伝性)、外傷性、医原性などが考えられます。
ほとんどが遺伝性と言われており、生まれつき外れているのではなく、脱臼の原因となる解剖学的不整が存在する事で脱臼が生じてくると言われています。
また、脱臼を起こすことでさらに筋肉の不正や骨の奇形が生じてより悪化していく傾向があります。

 

〈症状〉
若い時は脱臼した時に後ろ足を挙上し、その後脱臼が戻ると通常の歩行に戻ったりと、時々ケンケンをしたりするのが特徴です。
内方脱臼ではO脚に、外方脱臼ではX脚となります。成長期に脱臼が存在すると、脱臼したまま骨が成長して骨が変形してしまう事があります。
高齢になり関節炎が進んだ場合には負重が弱くなったり、動くのを嫌がるようになる場合があります。
また、前十字靭帯断裂を併発した場合には後ろ足を上げっぱなしとなる事もあります。

 

〈診断〉
歩行検査、整形外科的検査、レントゲン検査などにより診断します。
脱臼のしやすさでグレード(病期)がG1〜4(singleton分類)まで分けられます。
すべての症状はグレードに一致しませんが、患者の脱臼の程度を評価し、手術を行うかどうかの基準の一つにもなります。

G1 手で押すと脱臼するがすぐ元に戻る
G2 基本ははまっているが頻繁に外れる
G3 外れっぱなしで手で元に戻す事はできるがすぐ外れる
G4 外れっぱなしで元に戻せない

〈治療法〉
内科治療もしくは外科手術による矯正を行います。

内科治療:体重制限、ジャンプや階段をさける、過度な運動の制限、消炎鎮痛剤、サプリメントの使用 など

外科治療:手術を行う事で脱臼による症状をなくし、将来的な関節炎や靭帯断裂の予防が可能です。手術を行うべきかどうかは以下を基準と考えています。

  • 症状がある:グレードに関わらず今後繰り返す、ひどくなる可能性が高いため
  • グレードが高い(外れやすい):特にグレード2−3以上では日常で外れる頻度が高い、もしくは外れっぱなしのため将来的な関節炎や靭帯損傷の可能性が高い
  • 体重が重い:大型犬や肥満犬では将来的な関節炎のリスクが高くなります
  • 年齢:若齢の場合には脱臼がある事で今後さらに程度がひどくなる可能性や骨の変形が起こる可能性があるため、なるべく早めの手術が理想です

 

最終的には飼い主様と相談になりますが、手術が適応な子に関しては早めに積極的に手術を行ってあげることでより良い生活の質が保てると考えております。

手術方法としては滑車溝形成術、脛骨粗面転移術、矯正骨切術、内側大腿膝蓋筋膜の開放、外側大腿膝蓋筋膜の縫縮、脛骨抗内旋術などがあり程度や骨の形、年齢などに合わせてこれらを組み合わせて行います。